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古内一絵さんの小説『最高のアフターヌーンティーの作り方』をご紹介します。
この本をおすすめしたいのはこんな方
- アフターヌーンティー or お菓子が好き
- 仕事や家事、子育てにちょっと疲れてしまった
- 生きづらさを感じている
古内一絵さんの経歴
僭越ながら古内一絵さんのプロフィールを簡単にまとめさせていただきました。
- 東京都生まれ
- 大学卒業後、映画会社に入社、その後中国語翻訳者として活躍
- 2010年 第5回ポプラ社小説大賞特別賞を受賞
- 2011年『快晴フライング』で小説家デビュー
- 2017年『フラダン』で第6回JBBY賞(文学作品部門)を受賞
- 他の著作に『マカン・マラン 二十三時の夜食カフェ』『十六夜荘ノート』(中央公論新社)等がある
主に青春ものや大人の女性へのエール、戦争ものをテーマに作品を執筆されている作家さん。
『マカン・マラン』シリーズは「読書メーターOF THE YEAR 2019」にも選ばれており、古内さんの代表作のひとつと言えるのではないでしょうか。
あらすじ
物語の舞台は広大な庭園を持つ老舗・桜山ホテル。
遠山涼音は新規採用から7年を経て、憧れのアフターヌーンティーチームに配属されました。
今までにない斬新なクリスマスアフターヌーンティーを提案したい。
そんな思いで作った初めての企画書は、シェフ・パティシエの達也に却下されてしまいます。
落ち込む涼音でしたが、桜山ホテルでお客様や先輩たちと過ごす日々のなかで”最高のアフターヌーンティー”について考え始めます。
アフターヌーンティーとは
小説の題名にもなっているアフターヌーンティーは19世紀、大英帝国最盛期のビクトリア時代に始まった貴婦人たちの習慣が起源となっています。
当時、イギリス貴族の食事は1日に2回。朝食の後、夜の8時頃から始まる夕食まで何も食べることができませんでした。
特に1日中コルセットをつけていなければいけない女性たちは、男性貴族のように気軽に間食をすることも許されず空腹と共に長い午後の時間を過ごしていました。
そんな生活に耐え兼ねて第7代ベッドフォード公爵夫人、アンナ・マリアが人目を忍び、ベットルームに紅茶とお菓子を持ち込んで、秘密のお茶会を楽むようになったことがアフターヌーンティーの始まりです。
誰にも邪魔されず、甘いお菓子と紅茶を思う存分楽しむ。
アンナ・マリアのひとりだけの楽しみだったお茶会は、次第に華やかな貴婦人の社交の場へと移り変わり、アフターヌーンティーと呼ばれるようになりました。
アフターヌーンティーは
- セイボリー(サンドイッチ)
- スコーン
- ペイストリー(スイーツ)
が3段のスタンドに並ぶスタイルが主流。
これはビクトリア後期にロンドンのホテルでアフターヌーンティーを楽しめるようになってから誕生した形式です。
おすすめポイント
美味しそうな食べもの
『最高のアフターヌーンティーの作り方』には美味しそうなスコーンやケーキ、サンドイッチがたくさん出てきます。
桜風味のムース。フランス産グリオットチェリーのコンポートがたっぷり入ったタルト。卵の黄身のソースを添えた瑞々しいグリーンアスパラガス。サーモンとそら豆と新じゃがのキッシュ……。
古内 一絵『最高のアフターヌーンティーの作り方』第一章「私のアフターヌーンティー」より
柑橘系の爽やかな香りを持つハーブ、ヴェルヴェーヌと檸檬シトロンのジュレ。
古内 一絵『最高のアフターヌーンティーの作り方』第二章「俺のアフターヌーンティー」より
フレッシュな杏子と、抹茶クリームのガトー。
ライムとスピルリナのグリーンマカロン……。
妄想するだけで楽しい時間を過ごすことができそうですね。
特にポルボロンというお菓子は物語に切ない余韻を残してくれる存在です。
ポルボロンが出てくるのは物語の最終章。
主人公である涼音が憧れのアフターヌーンティーチームに配属されて1年が経った頃。
フェアウェルアフターヌーンティーで、”旅立ち”をイメージするお菓子を取り入れることになり選ばれたのがポルボロンでした。
ポルボロンはスペイン・アンダルシア地方の伝統菓子。
修道院の厨房で生まれました。
ポルボロンという名前の由来はスペイン語の「polvo(ポルボ)」。
直訳すると「ほこり」という意味ですが、この言葉には「ほろほろと崩れる」という意味も含まれています。
材料に煎った小麦粉とアーモンドプードルを使うポルボロンは粘りのもとになるグルテンが少なく、口に入れた瞬間柔らかく溶けていくような繊細な口当たりが特徴。
口の中で溶けてしまう前に
「ポルボロン、ポルボロン、ポルボロン」
と3回唱えることができれば願い事が叶うという言い伝えがあります。
アンダルシア地方ではクリスマスや誕生日などのおめでたい日にポルボロンを食べて将来の夢の成就を占うのだそう。
そのおまじないのような唱え事と将来を占う要素が”旅立ち”にぴったりだということで選ばれたお菓子がポルボロンでした。
![](http://bookfoodblog.com/wp-content/uploads/2023/12/20231209151424_IMG_11292-1024x683.jpg)
ポルボロン。
丸くて可愛らしい見た目のクッキーです。
粉糖が降り積もる雪のよう。
ほろほろと溶けていく口当たりと素朴な甘さにとても幸せな気持ちになるお菓子です。
登場人物への温かい眼差し
古内さんの作品は登場人物に対するあたたかい眼差しが魅力的。
例えば『マカン・マラン』シリーズの悩める登場人物たちであったり、『フラダン』の震災を経験した高校生たちであったり。
ごく普通に生活していても心のなかにはそれぞれの思いを抱えている。
そんな人たちが描かれています。
『最高のアフターヌーンティーの作り方』のなかでは非正規社員であることや識字障害であることにより生きづらさを感じている人たちの複雑な心情も描かれています。
わたし自身、正社員よりも非正規社員だった時期のほうが長く、仕事柄非正規社員が多い環境に属していたので共感できる部分がありました。
生きづらさを感じている人たちの心に寄り添いながら、そっと背中を押してくれる。
そんな心温まるストーリーを読めば前向きな気持ちになることができますよ。
最高のアフターヌーンティー
この物語のなかで印象的だったのは、職場の人間関係に悩む京子がアフタヌーンティーを楽しんでいるところを同じ非正規社員である職場の同僚たちに見られてしまう場面です。
節約したお金でひとり優雅な時間を楽しんでいた京子に対し、同僚たちは「友達がいない」とか「アフターヌーンティーって社交だよね」だとか「一人ってありえない」とかいう言葉を投げつけます。
このとき涼音がアフターヌーンティーについて説明するシーンは印象的でした。
彼女の物腰の柔らかさが素敵で見習いたくなります。
アフターヌーンティーは、決して社交だけのものではありません。お一人でじっくり楽しんでいただくこともまた、アフターヌーンティーの本来の在り方なんです。
古内 一絵『最高のアフターヌーンティーの作り方』第二章「俺のアフターヌーンティー」より
〈社会からの解放〉と〈社会生活を営む上での交友〉。
その両方が、アフターヌーンティーの神髄である。
ご褒美であるお菓子をひとりで楽しむこともみんなで楽しむことも、どちらもアフターヌーンティーの楽しみ方でそれぞれの楽しみ方があっていい。
この場面にはそんなメッセージが込められているのではないでしょうか。
そして、この出来事がきっかけで涼音は最高のアフターヌーンティーについて考えることになり、涼音だけでなく涼音と対立していた達也の心も少しずつ変わっていきます。
涼音や達也の心境の変化にも注目していただきたいです。
まとめ
古内一絵さんの『最高のアフターヌーンティーの作り方』はお菓子やアフタヌーンティーが好きな方や日常にちょっと疲れてしまった方におすすめです。
心温まる物語でクリスマスの季節にもぴったりですので是非読んでみてくださいね。
アフターヌーンティーについてもっと知りたい方、ヌン活が好きな方はこちらの本もおすすめです。
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イギリス旅のお供にもどうぞ。
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